外側上顆炎(テニス肘)
1. 外側上顆炎(テニス肘)とは
「最近、肘の外側が痛くて、コップを持ち上げるだけで辛い」「パソコン作業をしていると肘がじんじんする」そんな経験はありませんか?それはもしかすると、外側上顆炎(がいそくじょうかえん)、いわゆる「テニス肘」かもしれません。
外側上顆炎とは、肘の外側にある骨の出っ張り「外側上顆(がいそくじょうか)」に繰り返しのストレスが加わり、そこについている腱が傷ついて痛みが起こる病気です。
肘を伸ばした状態で腕の外側(親指側)を触ると、ぽこっとした骨の出っ張りが感じられます。これが外側上顆です。この出っ張りには、手首を手の甲側に反らせたり、指を広げたりするための筋肉の腱が複数集まってついています。この腱が少しずつ傷ついて炎症を起こした状態が外側上顆炎です。
「テニス肘」という名前から、テニスをしている人だけがかかる病気と思われがちですが、実際には全患者のうちテニス経験者は約5〜10%程度です。残りの大多数は、日常的に手や肘を繰り返し使っている一般の方々です。家事・デスクワーク・料理・大工仕事・楽器演奏など、日常のあらゆる場面で発症する可能性があります。
発症のピークは30代後半から50代で、男女差はほとんどありません。肘の痛みの原因として最も多い病気の一つであり、整骨院や整形外科を受診する方の中でも特によく見られます。
出典:https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/tennis-elbow/symptoms-causes/syc-20352051
2. なぜ起こるのか(原因)
外側上顆炎の根本的な原因は「腱への繰り返しの負荷」です。一回一回の動作で生じるダメージは非常に小さくても、それが何百回・何千回と積み重なることで腱が傷ついていきます。
① 日常動作の繰り返し 「特別なスポーツはしていないのになぜ?」と思う方も多いですが、日常生活の中にも腱への負荷は潜んでいます。たとえば、パソコンのマウスを長時間握り続ける動作・キーボードを手首を浮かせた状態で打ち続ける動作・重い鍋やフライパンを持ち上げる動作・雑巾を絞る動作——これらはすべて外側上顆の腱にストレスをかけます。
② スポーツでの反復動作 テニスのバックハンドストロークは、ラケットを振るときに肘の外側に強い力がかかる動作です。特にフォームが崩れているときや、グリップが合っていないラケットを使っているときは腱への負担が大きく増えます。バドミントン・スカッシュ・剣道なども同様のリスクがあります。
③ 年齢による腱の変化 腱は年齢とともに柔軟性が低下し、ダメージへの回復力も落ちていきます。30代後半以降に発症が増えるのはこのためです。若い頃は同じ動作をしていても何でもなかったのに、年齢とともに発症するケースが非常に多いのが特徴です。
④ 筋肉のアンバランス 手首を伸ばす筋肉と曲げる筋肉のバランスが崩れていると、特定の腱に負荷が集中しやすくなります。日常的に手首を伸ばす動作が多い方は、曲げる筋肉が相対的に弱くなっていることがあり、これが発症のリスクを高めます。
出典:https://www.clevelandclinic.org/health/diseases/21993-tennis-elbow-lateral-epicondylitis
3. どんな症状が出るのか
外側上顆炎の症状は、最初は「少し気になる程度」から始まり、放置することで「日常生活が辛くなるほど」に進んでいくことが多いです。
① 肘の外側の圧痛(押すと痛むこと) 肘の外側の骨の出っ張り(外側上顆)周辺を指で押すと、「ここ!」とはっきり痛みを感じる場所があります。この圧痛点の存在が外側上顆炎の大きな特徴です。
② 特定の動作で走る痛み 手首を手の甲側に反らせる動作・ものをぎゅっと握る動作・前腕をひねる動作で肘の外側に痛みが走ります。日常生活では、コップや急須を持ち上げる・ペットボトルのふたを開ける・ドアノブを回す・タオルを絞る・ハンドルを握るといった場面で痛みを感じます。
③ 握力の低下 痛みをかばうことで力が入りにくくなり、握力が低下します。「重いものが持てなくなった」「ペンを握るのが辛い」「マウスのクリックで肘が痛む」という声がよく聞かれます。ひどい場合はものを落としてしまうこともあります。
④ 前腕のだるさ・張り 肘の外側から前腕(肘から手首までの部分)にかけて、だるさや張りを感じることがあります。長時間の作業後や夕方に特に強く出る傾向があります。
⑤ 朝のこわばり感 朝起きたとき、肘や前腕が硬くこわばった感じがすることがあります。少し動かすと徐々に楽になるというパターンがよく見られます。
出典:https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/tennis-elbow
4. 肘の中で何が起きているのか
外側上顆炎が起きているとき、肘の内部では何が起きているのかをステップごとに見ていきましょう。
ステップ①:腱への小さなダメージが積み重なる
手首を伸ばしたりものを握ったりするたびに、外側上顆についている腱に小さなストレスがかかります。健康な腱であれば、その夜の睡眠や休養で修復されます。しかし休養が不十分なまま同じ動作を毎日繰り返していると、修復しきれなかったダメージが少しずつ積み重なっていきます。
ステップ②:修復が追いつかなくなる
積み重なったダメージが体の修復力を上回ると、腱の組織が少しずつ変質し始めます。本来は整然と並んでいるコラーゲン繊維が乱れ、腱全体がもろくなっていきます。
ステップ③:異常な血管・神経が増える
傷ついた腱の周囲に、本来は少ないはずの血管や神経が異常に増えてきます。この増えた神経が慢性的な痛みの大きな原因になります。最新の研究では、外側上顆炎の本質は単純な「炎症」ではなく「腱の変性(組織が変質すること)」であることが明らかになっています。
ステップ④:痛みをかばう悪循環
痛みをかばうことで腕の使い方が変わり、周囲の筋肉のバランスが乱れます。それがさらに腱への負担を増やし、ますます治りにくくなるという悪循環に陥ります。「なかなか治らない」と感じる方が多いのはこのためです。
出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK431092/
5. 治療方法
外側上顆炎の治療は「腱への負荷を減らしながら、傷ついた組織の回復を助ける」ことが基本です。適切に対処すれば、約80〜95%の方が手術なしで回復できます。
負荷を減らす(安静) まず最も大切なのは、痛みの原因となっている動作を意識的に減らすことです。「少し痛いけど我慢して続ける」は最も回復を遅らせる行動です。症状が強い時期は、痛みが出る動作を思い切って休むことが最短回復への近道です。
アイシング(冷やすこと) 症状が強い時期は患部を冷やすことで炎症と痛みを和らげます。保冷剤や氷をタオルで包み、1回15〜20分を1日数回、肘の外側に当てます。皮膚に直接当てると凍傷になるため、必ずタオル越しに使ってください。
出典:https://www.clevelandclinic.org/health/diseases/21993-tennis-elbow-lateral-epicondylitis
サポーター・テーピング 前腕に巻く「カウンターフォースブレース」と呼ばれるベルト型サポーターが広く使われています。腱にかかる力を分散させ、日常生活やスポーツ時の痛みを和らげます。整骨院・整形外科・スポーツ用品店で入手できます。
手技療法・物理療法 外側上顆炎の原因筋である短橈側手根伸筋だけでなく、そこに付着する前腕伸筋群と首から出ている神経にもアプローチをします。これが他の整骨院や病院との大きな違いです。
整骨院では、手技による筋肉・腱のほぐしや、超音波治療・低周波治療などの物理療法が行われます。血流を改善し、腱の修復を助ける効果が期待できます。
リハビリテーション 柔道整復師のもとで、前腕の筋肉・腱のストレッチと筋力強化を行います。特に「遠心性収縮運動(筋肉を伸ばしながら力を入れる運動)」は腱の修復・再生を促すことが研究で示されています。
出典:https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/tennis-elbow/diagnosis-treatment/drc-20352054
6. 日常生活での工夫
外側上顆炎になると、スポーツだけでなく日常のさまざまな場面で困りごとが生まれます。
パソコン作業をするとき キーボードとマウスの位置を肘の高さと同じか少し低い位置に調整しましょう。手首を浮かせたままタイピングを続けると前腕に余計な緊張が生まれます。リストレスト(手首を支えるクッション)を活用すると負担が軽減されます。
料理をするとき 重い鍋やフライパンは片手で持たず、必ず両手で支えるようにしましょう。包丁は握り込まず、軽い力で持つことを意識します。大きなグリップ付きの調理器具に変えることも効果的です。
荷物を持つとき 手のひらを下に向けてものを持つ動作が最も肘の外側に負担をかけます。できるだけ手のひらを上に向けるか両手で持つようにしましょう。買い物にはカートやリュックサックを活用することをお勧めします。
睡眠のとき 患側(痛い方の肘)を下にして寝ると圧迫されて痛みが増すことがあります。仰向けか、痛くない方を下にした横向きで寝るようにしましょう。
出典:https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/tennis-elbow
7. どれくらいで治るのか
症状の程度や治療への取り組み方によって個人差がありますが、目安として軽症であれば数週間〜2〜3ヶ月、中等症では3〜6ヶ月、慢性化したケースでは1年以上かかることもあります。
大切なのは「痛みが消えた=完治ではない」という点です。腱の組織が完全に修復されるには、痛みが消えた後もさらに時間が必要です。「痛くなくなったから大丈夫」といきなり以前と同じ動作量に戻すと、高い確率で再発します。痛みが消えた後も、段階的にゆっくりと活動量を戻していくことが長期的な回復の鍵です。
出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK431092/
8. 見逃してはいけない病気との違い
肘の外側の痛みには外側上顆炎以外の原因もあります。以下のような症状が伴う場合は、整形外科での精密検査が必要です。
橈骨神経障害(とうこつしんけいしょうがい) 肘の外側を通る橈骨神経が圧迫されると、外側上顆炎と非常に似た痛みが起こります。「指が伸ばしにくい」「手の甲にしびれがある」という場合はこちらの可能性があります。
変形性肘関節症(へんけいせいひじかんせつしょう) 長年の使いすぎや加齢で肘の軟骨がすり減った状態です。肘の曲げ伸ばし自体に制限が出るのが特徴です。レントゲンで確認できます。
頸椎(けいつい)からくる痛み 首の骨の問題で神経が圧迫されると、腕全体に痛みやしびれが出ることがあります。首を動かしたときに症状が変わる場合は頸椎の病気も疑われます。
出典:https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/tennis-elbow/symptoms-causes/syc-20352051
9. 再発を防ぐために
外側上顆炎は再発しやすい病気です。一度治った後も同じ生活習慣を続ければ、同じ部位が再び傷つきます。
日常的に前腕のストレッチを習慣にすること、手首を伸ばす筋肉と曲げる筋肉をバランスよく鍛えること、道具の見直し(ラケットのグリップサイズ・マウスの種類など)、そして正しいフォームを身につけることが再発防止の基本です。
スポーツ復帰の際は、痛みが完全に消えてから段階的に練習量を増やしていくことが大切です。いきなり以前と同じ練習量に戻すことは再発への近道です。焦らず、少しずつ体を慣らしていきましょう。
出典:https://www.clevelandclinic.org/health/diseases/21993-tennis-elbow-lateral-epicondylitis
10. まとめ
外側上顆炎(テニス肘)は、テニス経験者に限らず、日常的に手や腕を繰り返し使うすべての人に起こり得る病気です。「コップを持つのが辛い」「肘の外側を押すと痛い」「握力が落ちた気がする」という症状に心当たりがある方は、ぜひ一度ご相談ください。
早い段階で適切なケアを始めることが、回復を早め、慢性化を防ぐ最善の方法です。手術が必要になるケースはごくわずかで、多くの方が保存的な治療とリハビリで回復しています。
痛みを我慢して放置せず、肘の異変を感じたら早めに専門家に診てもらうことをお勧めします。

